お侍様 小劇場 extra
〜寵猫抄より

   “万聖節の前夜祭”
 


流れ星が話題になる頃合いは、
列島上空の大気も大きく入れ替わるものなのか。
残暑がしつこく長引く年であれ、
10月半ば辺りに いきなり、ぐんと気温が下がっての、
秋の終わりらしい気候がやって来るもので。
今年はここ数年と大きく異なり、
早い時期から 朝晩のみならず昼間も過ごしやすくなっていたせいか。
ちょっとした上着や靴下の準備は、はやばやと済ませてあったお宅も多く。
とはいえ、さすがに木枯らしが吹いたなんて報が聞かれると、
秋への備えを通り越し、
冬を前にした本格的な暖かい備えをしなきゃあという感が強くもなる。

 「…おや。」

当家で毎朝 一番早く起き出す存在が、
そおと起き出したそのまま、身支度を整えてリビングへ赴けば。
庭に向いた大きな掃き出し窓の前に立つ、小さな背中が目に入る。
何やら真摯に外を見ているらしく、
微動だにしないところはややもすると素っ気なく思われて。

 “こういう姿も可愛いんだけどもねvv”

でもでも、気になるものがあるなら払ってやらねばと、
それが先だと歩みを進め、

 「どうしたんだい? 久蔵。」

窓まで近づきつつ声をかければ、
それが常服の白っぽい色合いのフリースの上下も
さすがに厚みを増したそれへ変化している、
小さな金髪の坊やが、くりんと振り向いて来て、
サクランボみたいな瑞々しい口許を丸ぁく開ける。

 「みゃぁあ。」
 「んん? 寒くって眸が覚めたのかな?」

いきなり抱っこはいたしません。
だってこの子もこれで気位の微妙なところがあって、
小さな家族が増えたから尚更にか、
赤ちゃん扱いすると ぷうと膨れるようにもなったほど。
なので、まずは すぐ傍らへ膝をつき、目の高さを合わせるだけにして、
柔らかな声で話しかければ、
寒かった訳ではないのか、違うのとかぶりを振って見せ。
紅葉のようなという描写が相応しい、
その小ささだけでも愛らしいし、
やや覚束ない力で開いた手が何とも言えず愛おしい。

 「まうにぃ、なぁん。」

冷たいだろうに窓ガラスをぺちぺちと叩いて見せて、
お外が気になるのと示す彼で。
うるりと見張られた紅色の玻璃のような双眸が示すのは、
ポーチに置かれた大きめの黄色いカボチャ。

 「ああ、そっか。気がついたんだね。」

今宵はハロウィン。
西洋のお盆のようなもので、
聖者のためにと冥府の蓋が開くどさくさに、亡者も抜け出てしまうので、
此処にはもっとおっかない魔物がいるぞよと、
追い返すためのいろいろ、怖いものへの趣向を凝らすのだとか。
カボチャを刳り貫き、不気味な顔を掘って
中にロウソクを仕込み、ランタンにするのもその一つで、
悪魔さえ騙くらかした嘘つき、ジャックという男の顔なんだとか。
特にこれといって馬鹿騒ぎまではしないけれど、
これもまた季節の風物と、
小さな家族が増えてから、楽しませてやろうと思うたか、
手先が器用な敏腕秘書殿が、毎年彫っているもので。
今年もまた、
坊やに見つからないよう、夜更けてからこつこつと少しずつ彫り進め、
昨夜の宵に仕上がったもの、乾かすのをかねて出して置いたのを、
今朝になって見つけた久蔵だったのだろう。

 「みゃん・まうvv」

元気に大きく見張られての愛らしい、紅色の双眸で見上げて来て、
こちらが着ていたモヘアのセーターに きゅうと掴まって来るのが、
手の小ささ、その力加減の儚さも相俟って、

 “ひゃあぁああぁぁぁ〜〜vv///////////”

もうもう、何て可愛らしいと、
こちらも色白金髪、冴えた風貌をした凛々しい美丈夫であるものが、
すっかり骨抜き、可愛いよぉと相好も崩れての目尻が下がる下がる。

 「みぃにぃ・みゅうvv」

そのまましがみついて来て、
こちらの胸元へぱふりと頬を埋め、
甘い甘いおねだりらしき、懐ろへのグリグリを受けてしまっては、

 「うんうん、ご飯食べたらお外で遊ぼうねぇvv」

そういや、このところ急に寒くなったのでと、
衣替えだの何だの、バタバタしていた七郎次でもあり。
庭のプリムラの鉢も並べ変えなければならないし、
出来上がったばかりのランタンを
間近で見たいらしい久蔵のリクエストにも応えねばと。
傍から見るとキャラメル色のメインクーンちゃんの思うところ、
ちゃんと読み取れてしまえるおっ母様。
実は彼の側からもう一つ、仔猫さんへのサプライズもあったりし。

 “二階のサンルームに干してるコタツ布団、
  まだ気づかれてはないみたいだしvv”

朝晩ぎゅっと冷え込み始めたが、
今のところはまだ、陽のあるうちは暖かいので。
もうちょっと寒くなってから、まだ早いかなと、
そのお出まし、いつでもOKとしておくための準備にも
実は怠りのないおっ母様。

 “ああまで甘やかされておれば、
  守りの発奮も更増すそれとなろうというものだよなぁ。”

同じリビングのソファーの一角。
今年のためにと七郎次が選んで買った、
ふわふかなフリースブランケットをくるんと丸めて作った寝床にて。
小さな黒猫さんが、片目だけをうっすら開けて、
こそり微笑みつつ思った、晩秋の朝でした。





   〜Fine〜  14.10.31.


  *今年のハロウィンは どのお話で繰り広げよかと迷ったのですが、
   寒くて曇り空の朝でしたので、こちらの母子でほのぼのとvv
   別ンちの久蔵坊ちゃんも、
   七郎次おっ母様が煮てくれたカボチャをお弁当に入れてもらって
   ふふーと こっそり微笑っておりますし、
   (判別可の人は限られますが…)
   女子高生のヒサコ様は、
   忙しさ絶頂になろう いよいよの学園祭を前に、
   仲良しさんたちで集まってパンプキンパイなぞ焼いて…
   そんな風に穏やかに過ごしてくれればいんですがねぇ。(笑)

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